心療内科・精神科の診断書とは?わかりやすく解説
ここでは、精神科や心療内科の診断書の病名・休職期間・金額の違いなど様々な疑問についてみていきたいと思います。精神科や心療内科における診断書のもつ公的な意味や、本来の役割を整理してみましょう。それを踏まえて、患者さんの立場と会社の立場の両方にたって診断書の意味を考えていきたいと思います。

心療内科・精神科の診断書について
医療機関で治療を受けていると、自身の病名や治療の進行状況、回復の見込みなどを公的に証明しなければならない場面が出てくることがあります。理由はさまざまですが、最も一般的なのは、職場に提出する休職や復職のための診断書でしょう。
しかし、内科や外科といった身体疾患に関する診断書と異なり、精神科や心療内科の診断書は表現が抽象的になりがちで、その曖昧さゆえに誤解が生じ、トラブルにつながるケースも少なくありません。
職場の立場からすると、突然、従業員から休職や復職の診断書を受け取り、どのように対応すべきか困惑することがあります。一方で、患者さん自身も診断書を会社に提出したのに受理されないといった問題に直面することもあり、必ずしもスムーズに手続きが進むとは限りません。
さらに、診断書に記載される病名や休職期間が不明確で、書類を見ても実際の状態が分かりにくいという声も聞かれます。このように、精神科や心療内科の診断書には曖昧な点が多く、実際の運用において混乱が生じやすいのが現状です。
本記事では、精神科や心療内科における診断書の役割や、公的な意味について整理しながら、診断書に記載される病名や休職期間、費用の違いについて詳しく解説します。そのうえで、患者さんの視点と会社側の視点の両方から、診断書の意義について考えていきたいと思います。
精神科や心療内科の診断書について、さまざまな疑問を解消していきましょう。今回は、病名、休職期間、費用、環境調整の4つのポイントに焦点を当てて解説します。
精神科や心療内科の診断書は、その内容が分かりづらいと感じることが少なくありません。身体疾患とは異なり、具体的なイメージを持ちにくいため、職場の担当者など周囲の人々が戸惑ってしまうこともあります。また、診断書を受け取ったものの、どのように対応すべきか分からず困ってしまうケースも少なくないでしょう。
特に多くの方が疑問を抱くのが「病名」に関する点です。診断書には「抑うつ状態」「うつ病」「適応障害」「自律神経失調症」などの病名が記載され、それに伴って休職や環境調整の必要性が示されます。しかし、これらの病名の違いが分かりにくかったり、患者さん自身が「思っていたのと違う診断を受けた」と困惑したりすることもあります。
また、精神疾患に関する診断書では、休職期間が長めに設定されることが多く、患者さん本人や職場の担当者が「そんなに時間がかかるのか?」と疑問に思うこともあります。
加えて、「環境調整」や「休職」の記載が抽象的で、「もう少し具体的な指示がほしい」と感じるケースもあります。一方で、詳細に書かれすぎてしまい、職場の担当者が「主治医の指示通りに対応するのが難しい」と悩むこともあるようです。
さらに、診断書にかかる費用も患者さんにとって気になるポイントでしょう。これらの疑問について、一つひとつ詳しく見ていきたいと思います。
診断書の病名
診断書に記載された病名が、自分のイメージしていたものと異なり、疑問を感じる方も少なくありません。企業の担当者からも、「抑うつ状態」といった曖昧な表現では、対応が難しいという声が聞かれることがあります。
しかしながら、精神科や心療内科の診断書においては、病名がそれほど大きな意味を持たないケースが多いのです。その理由として、以下の3つが挙げられます。
- 診断名が状態を表すことがある
- 治療の進行によって病名が変わることがある
- あえて柔らかい印象の病名にすることがある
精神疾患の診断は、患者さんの訴えや様子をもとに進められるため、初診時点で「〇〇病」と明確に分類できることは多くありません。心の病気は、さまざまな要因が絡み合っていることが多く、一つの病名に当てはめるのが難しいケースがよくあります。そのため、明確な病名ではなく、「抑うつ状態」といった現在の状態を示す表現が用いられることがあります。
例えば、「抑うつ状態」「うつ状態」という診断名は、気分の落ち込みや意欲の低下が顕著で、日常生活に支障をきたしている状態を指します。これはうつ病の典型的な症状ではありますが、「うつ状態がある=うつ病」というわけではありません。さまざまな精神疾患において、ストレスが重なることでうつ状態が現れることは珍しくないのです。
また、精神科・心療内科では、治療の経過とともに病名が変わることも珍しくありません。血液検査や画像検査のように明確な数値で判断できないため、長期間の診療の中で少しずつ病態が明らかになることもあります。例えば、双極性障害の診断には平均5年、場合によっては10年以上かかることもあると報告されています。そのため、確定診断が難しい段階では、診断書にも明確な病名を書かないことがあります。
さらに、精神疾患に対する社会的な偏見や誤解はいまだに根強く、「心の病気は再発しやすい」「ストレスに弱い人がなる」といった先入観を持たれることもあります。そうした影響で、患者さんの社会復帰が妨げられることもあるため、主治医が意図的に柔らかい表現の病名を用いることもあります。患者さんの将来を考え、不利益を避けるための配慮の一環です。
病名を明確に記載しないことに違和感を持つ方もいるかもしれませんが、精神科・心療内科ではこのような理由から、診断名が暫定的に付けられることが多いのです。そのため、診断書に記載された病名に対して過度にこだわる必要はありません。
よく見られる診断名について、以下のような解釈ができます。
- 抑うつ状態・うつ状態 → 強い気分の落ち込みがある状態
- 不安障害・不安神経症 → 不安感が強く生活に影響を及ぼしている状態
- 自律神経失調症 → 自律神経の不調による症状が認められる状態
- 適応障害 → 環境の変化に適応できずストレスを感じている状態(環境調整が必要になる可能性あり)
- 双極性障害・統合失調症・発達障害 → 病気の特性に応じた支援が求められる状態
診断書の病名について疑問がある場合は、主治医に直接確認することをおすすめします。また、会社としては、それぞれの病名が持つ意味や、どのような対応が必要になり得るのかを把握しておくと、適切な対応の参考になります。ただし、病名だけで判断せず、産業医と相談の上で対応を決定することが重要です。
うつ状態・抑うつ状態
著しく意欲が低下し、気分の落ち込みが強くなる状態です。多くの場合、睡眠障害や食欲不振、倦怠感などの身体症状も伴うため、心身ともに休養が必要となります。
ただし、抑うつ状態はさまざまな病気に共通して現れる状態であり、その原因も多岐にわたります。原因によって治療方法や職場での対応策が異なるため、一概に回復までの期間を決めることはできません。
企業側としては、より詳細な情報を求めたくなるかもしれませんが、過度な接触は本人の状態を悪化させる可能性があります。そのため、基本的には受け身の姿勢をとり、最低限の連絡に留めるのが望ましいです。まずは十分な休養を優先させましょう。
うつ病
うつ状態が固定化し、病気として診断される状態です。診断基準としては、2週間以上うつ状態が持続していることが求められます。
うつ病は他の病気と合併することもありますが、まずは気分の落ち込みの回復が重要です。重症度によって異なりますが、しっかりとした休養期間が必要となり、長期の休職が必要になるケースも少なくありません。
復職時には、リハビリ出社や残業制限を設けるなど、業務負荷を段階的に調整することが望ましいです。
心因反応
明確なストレス要因が原因となっている場合に用いられる診断名です。ストレス要因から距離を置き、心身を休養させることが回復への第一歩となります。
現実的な解決策が見つかれば、比較的早期に回復することもあります。産業医や人事が介入し、環境調整を行うことで症状が軽快することもあります。
ただし、休職中の本人に無理に話を聞こうとするのは避けましょう。まずは十分な休養をとってもらい、冷静に話ができる状態になってから、本人の意向を尊重しつつ状況を確認することが重要です。その際は責めることなく、傾聴の姿勢を持つよう心がけてください。職場の関係者との面談が難しい場合は、産業医の面談を検討するのも有効です。
適応障害
異動や昇進など、職場環境の大きな変化によって生じる心身の不調を指します。勤怠の悪化や出勤時の強い苦痛、身体症状を伴うことが多く見られます。
職場環境の調整が必要となることが多く、負担の大きすぎる責任や仕事量の軽減、または人間関係の調整が求められる場合があります。必要に応じてサポート体制の見直しや異動を検討することも重要です。
自律神経失調症
心身の疲労が蓄積し、自律神経のバランスが崩れた状態です。不眠、めまい、吐き気、倦怠感、動悸・息切れなど、さまざまな身体症状が現れることが特徴です。
自覚がないまま精神的な疲労が蓄積しているケースもあり、薬物療法や休養によって心身のバランスを整える必要があります。
不安障害
強い不安によって社会生活が困難になっている状態です。
例えば、電車に乗ると過呼吸発作を起こすパニック障害や、対人関係で極度の緊張を感じる社交不安障害などが該当します。それぞれに適した対応が必要となるため、産業医と相談しながら職場での支援策を検討することが望ましいです。
統合失調症
診断書に記載されることは比較的少ないですが、幻覚や妄想が特徴的な脳の病気です。「幻覚妄想状態」と記載されることもあります。
かつては「不治の病」とされていましたが、現在では適切な治療と服薬により職場復帰が可能です。ただし、根本的な治療は難しく、薬物療法を継続することが重要となります。
職場での様子に異変を感じた場合は、本人の了承を得た上で主治医に情報提供することが、治療の助けとなる場合があります。
双極性障害
うつ状態と躁状態を周期的に繰り返す病気です。気分の波があるため、通常通りに過ごせる時期があることも特徴です。
適切な薬物療法が確立されており、病状が安定すれば復職は可能ですが、疲労やストレスによって悪化しやすい特性があります。そのため、定期的なコミュニケーションを取りながら、勤務時間や業務負荷を調整することが重要です。
生活リズムの安定が症状管理に有効なため、過度なストレスを避ける環境づくりを心がけましょう。
発達障害
コミュニケーションの困難さ、注意力・集中力の維持の難しさ、柔軟な対応の苦手さなど、個々の特性に応じた支援が必要な状態です。
これは病気ではなく、生まれ持った脳の特性によるものであり、大人になってから気づかれるケースも少なくありません。
得意・不得意の領域が明確なことが多く、適した職域を見つけることで能力を発揮できることがあります。対応を工夫することで、円滑な業務遂行が可能になるケースも多いため、本人と相談しながら環境を整えることが重要です。
休職期間について
精神科・心療内科の病気で休職が必要になった場合、その期間は身体の病気よりも長くなることが多く、多くは3か月以上となります。その理由として、以下の3つが挙げられます。
- お薬の効果が安定するのに時間がかかる
精神科の薬は即効性があるものばかりではなく、効果が安定するまでに時間がかかることが多いです。さらに、患者さんの状態に応じて薬の種類や量を調整する必要があるため、ある程度の期間が必要になります。 - リハビリ期間が必要になる
心の病気は、症状が改善した後も社会復帰の準備が必要です。特に対人関係や業務の負担などに少しずつ慣れていくことが重要であり、急な復職は精神的な負荷を高め、再発のリスクを伴います。そのため、段階的な復職を前提としたリハビリ期間が求められます。 - 不調のきっかけの解決に時間がかかる
休職の原因が職場のストレスや人間関係、過重労働などの場合、環境の調整が必要になることがあります。同じ環境に戻ることで再発のリスクが高まるため、復職に向けて職場側と調整を行う時間が必要です。
診断書の休職期間について
このような理由から、診断書の休職期間は3か月程度とすることが多いです。しかし、これはあくまで暫定的な期間であり、必ず3か月休む必要があるわけではありません。症状が改善すれば、「復職可」の診断書を提出することで早期の復帰も可能です。
一方で、休職期間を短く設定すると、回復や環境調整が進まなかった際に追加の診断書が必要となり、患者さんの負担が増えてしまいます。診断書の発行には時間や費用がかかるため、余裕を持った期間を設定することが望ましいのです。
会社側の対応について
会社側としては、いきなり3か月の休職診断書が提出されると、「そんなに重症なのか?」「この病院は大丈夫なのか?」と疑問に思われるかもしれません。しかし、これは患者さんの負担を軽減するための措置でもあります。
診断書の休職期間は、あくまで目安として考え、柔軟に対応することが重要です。特に、休職期間が短縮される場合は、主治医が社会復帰を促しているサインと考えられるため、会社側も復帰準備を進めるタイミングとなるでしょう。
費用
紹介状(診療情報提供書)は健康保険が適用されますが、診断書は自由診療扱いとなります。保険適用外の文書に関しては、各医療機関が独自に料金を決められるため、価格にはばらつきがあります。
一般的に、多くの病院では診療情報提供書の料金を基準に診断書の費用を設定しています。診療情報提供書の料金は、
- 診療内容のみのもの … 2,500円(250点)
- セカンドオピニオン向けの検査結果付き … 5,000円(500点)
これを踏まえ、通常の診断書は3,000円程度に設定している医療機関が多いようです。
企業指定のフォーマットに沿った診断書など、作成に手間がかかる場合は5,000円、障害年金の申請に必要な詳細な診断書では10,000円前後となることもあります。
また、病院によっては、簡易的な内容の診断書をより低価格で提供している場合もあります。
環境調整
精神科・心療内科の診断書には、復職後の職場環境に関する意見が求められることがあります。しかし、主治医がどの範囲まで記載するべきかについては慎重に考える必要があります。産業医と主治医の両方を経験した立場から、その適切な在り方についてお伝えしたいと思います。
職場環境の調整は、産業医を交えながら会社と協議して進めるのが最も現実的です。そのため、主治医が診断書に記載するのは、病状悪化を防ぐための医学的なポイントに限定するのが望ましいでしょう。
ここで重要なのは、適切な職場環境の調整を行うのは本来、産業医の役割であるという点です。後述しますが、主治医の診断書は「日常生活を送るのに一定の水準を満たしている」という趣旨であり、業務遂行の可否を判断するのは産業医の役目になります。そのため、復職時の職場調整は、産業医が現場の状況を考慮しながら決めていくのが原則です。
主治医としては、診断書には病状維持に必要な医学的な見解を述べるにとどめ、具体的な業務内容の制限などには踏み込まない方が適切です。例えば、「規則正しい生活リズムの維持が重要」と記載するのは問題ありませんが、「夜勤や遅番は禁止」といった断定的な表現は避けるべきです。同様に、「対人不安があるため、段階的な適応が望まれる」と書くことは妥当ですが、「接客業務や電話応対を禁止」と明記するのは適切ではありません。
実際、企業から具体的な職場調整について主治医に直接相談が寄せられたり、詳細な診療情報提供書の作成を依頼されたりすることもあります。このような場合、主治医としては「産業医の役割ではないのか」と疑問を感じることが少なくありません。外来の忙しさの中でこうした対応が求められると、企業側に対して負担を感じることもあります。特に、大企業のように常勤産業医がいる職場では、こうしたケースが頻繁に見られます。
一方、産業医の立場からすると、診断書に具体的な職場調整の内容が書かれてしまうと、現場での柔軟な対応が難しくなります。労働環境や契約内容は人によって異なり、一律に調整することはできません。そのため、主治医が細かい業務制限を記載すると、産業医としても調整がしづらくなり、かえって復職の妨げになる可能性があります。
そのため、診断書の記載は「本人と相談のうえ、適切な環境調整が望ましい」といった表現に留めるのが適切でしょう。患者さんの希望を反映させる場合も、「配置転換などの配慮が望まれる」といった柔軟性を持たせた書き方の方が、後々の調整をスムーズに進めやすくなります。
主治医が具体的な業務制限を強く主張してしまうと、結果として患者さんの復職が困難になる場合もあります。場合によっては、企業側と折り合いがつかず、休職延長という選択をせざるを得なくなることも考えられます。主治医は環境調整に直接関与するのではなく、最終的な職場調整は産業医と企業が相談して決定するというスタンスを取ることが、最も現実的な対応と言えるでしょう。